著者
宮崎 晴代 茂木 悦子 斉藤 千秋 原崎 守弘 一色 泰成 鈴木 伸宏 関口 基 湯浅 太郎
出版者
日本矯正歯科学会
雑誌
Orthodontic waves : journal of the Japanese Orthodontic Society : 日本矯正歯科学会雑誌 (ISSN:13440241)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.118-125, 2001-04-25
参考文献数
35
被引用文献数
11

本研究の目的は, 多数の歯を維持する日本人高齢者を対象として, その咬合および顎顔面形態を明らかにすることである.千葉市では毎年, 8020達成者を募集し千葉市主催の長生き良い歯のコンクールで表彰している.今回は平成10, 11年度の応募者41名に対し, アンケート調査および口腔内診査を実施し, その際口腔内及び顔面写真撮影, X線写真撮影, 印象採得を行い資料とした.応募者の平均年齢は82歳5カ月で, 平均現在歯数は25.3歯であった.年齢および現在歯数に男女差はなかった.咬合関係は, 前後的には上顎前突が78.9%, 正常が21.1%, 反対咬合は0%だった.垂直的には過蓋咬合が34.2%, 正常が65.8%, 開咬は0%だった.犬歯部アングル分はClass I (64.6%)とClass II (25.0%)が大半を占めた.叢生については, 上顎前歯部の叢生を有するものは4.9%と少なかった.下顎前歯部は31.7%に叢生を認めたが著しい叢生ではなかった.顎顔面形態については下顎骨が後下方回転し, やや上顎前突傾向を示した.以上により日本人8020達成者は比較的良好な咬合および顎顔面形態を有することがわかった.
著者
高野 安紀子 鬼久保 平 会田 泰明 清村 多 山口 賢 林 弘明 武山 治雄 清村 寛
出版者
日本矯正歯科学会
雑誌
Orthodontic waves : journal of the Japanese Orthodontic Society : 日本矯正歯科学会雑誌 (ISSN:13440241)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.353-359, 1999
参考文献数
15
被引用文献数
14

明海大学病院(旧城西歯科大学病院)矯正歯科において, 1989年8月から1995年8月にかけて来院した患者について統計学的分類を行い, 本院における以前の調査報告と比較し以下の結果を得た.1. 年度別新来患者数では, 大きな変動はみられず, 年間平均307.8人が来院していた.2. 初診月分類では, 7月, 8月の夏休みの時期に26.0%が, 3月, 4月の春休み前後の時期に20.9%が来院していた.3. 性別分類では, 男性 : 女性が1 : 1.8と女性患者が多かった.4. 年齢別分類では, 7∿12歳の患者で61.0%を占めていた.また, 成人患者が2割を超えて増加(26.7%)し, 特に女性の成人患者が増え, 女性患者全体の32.5%で, 成人男女比は1 : 2.5であった.5. 居住地域別分類では, 近隣の市町村からの来院が多く, そのほとんどは当院を中心として半径20km以内で, 全体の77.0%を占めていた.6. 主訴別分類では, 乱杭歯が最も多く, 次いで受け口, 出っ歯, 噛み合わせが悪い, その他, 歯が生えない, 検診で言われた, 顎が痛いの順であった.その他の項目も多く, 患者の訴えの多様化が示された.7. 現在の歯並びに気付いた時期としては, 「乳歯が抜けて生え変わるとき」が圧倒的に多く, 「全部永久歯にはえかわってから」, 「だんだん悪くなりました」, 「乳歯の時」, 「他人から言われて気が付きました」, 「急に悪くなりました」の順であった.8. Hellman's developmental stage分類ではIVA, IIIBが多く次いでIIIC, IIIA, IVC, VA, IIC, IIA, Iの順であった.9. 初診時に保険が適用となった患者数は, 全体の6.5%であった.10. 1998年4月現在の治療経過では, 保定終了, 保定観察中, 動的治療中がほぼ同率で, 次に中断, 経過観察中, 転医の順であった.
著者
SAKASHITA,Reiko
出版者
日本矯正歯科学会
雑誌
Orthodontic waves : journal of the Japanese Orthodontic Society : 日本矯正歯科学会雑誌
巻号頁・発行日
vol.61, no.6, 2002

In an effort to promote adequate development of the masticatory system and prevent dental problems, the Oral Health Promotion Project (OHPP) was started in 1984. The study was carried out for 8 years, and then followed up for another 9, in a district with no regular dental service, on Miyako Island, Okinawa, Japan. The study evaluated the Project's effect on occlusion by means of 163 longitudinal data on complete deciduous dentition (II A) at 4 years of age and 112 data on permanent dentition (IVA) at 13-15 years. Each age group was divided into four sections according to their birth year. As a control study, 352 data were collected from a neighbouring district. The presence of normal occlusion significantly increased and that of discrepancy type occlusion decreased among subjects born after 1984. This applied both to deciduous and permanent dentitions. An example would be the discrepancy in permanent dentition fell from 88.9% of children born in 1979-1980 (n=9), to 37.0% in those born in 1984-1985 (n=27) and to 27.8% for children born in 1986-1987 (n=18, p<0.05), while no significant changes were found in the control district. The majority of discrepancies (73.6%) seen at 4 years of age was still evident in the permanent dentition (p<0.001). Based on these results, the authors suggest that incidence of discrepant malocclusion can be reduced, but that it would be crucial to begin intervention soon after birth.
著者
宮薗,久信
出版者
日本矯正歯科学会
雑誌
Orthodontic waves : journal of the Japanese Orthodontic Society : 日本矯正歯科学会雑誌
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, 1999

本研究の目的は日常的に口呼吸をしている患者の顎顔面の形態的特徴を分析し, かつ, それらの特徴が環境要因によるものか遺伝的要因によるものかについて検討することである.小学児童58人(男子23人, 女子35人, 6&acd;12歳)と両親について正面側面の頭部X線規格写真(以下, セファロ)を撮影した.口呼吸の判定は, 他覚症状や既往歴についてのアンケート調査, 問診および視診を併せて行い, 口呼吸群(以下, M群)と鼻呼吸群(以下, N群)に分けた.統計分析するために標準値からの離れ度(SDU)を用いた.SDUは個々の患者が属する性別・年齢群に該当する標準値との差を標準偏差で割って求めた.形態分析の結果, 側面セファロで有意な特徴が示された.すなわち, M群は下顎が後方に回転していて, 上顎前歯が舌側傾斜していた.しかし, 正面セファロ分析で2群間に有意差はなかった.側面セファロにおける親子の相関に関して, M群は親子相関が低い傾向が推察された.しかし, 正面セファロの親子相関で特徴はなかった.以上のことから, M群の顎顔面形態は形態遺伝学的影響に加えて口呼吸という機能的影響と関連していることが示唆された.その結果, 上顎歯列の狭窄や下顎の後方回転などを生じるものと推察された.したがって, 矯正医はこれらの原因を除去することを治療方針に考慮すべきであり, 加えて, 後戻りの防止のためにも口呼吸の改善を図るべきだと考えられた.
著者
飯野,祥一朗
出版者
日本矯正歯科学会
雑誌
Orthodontic waves : journal of the Japanese Orthodontic Society : 日本矯正歯科学会雑誌
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, 2002

骨格性下顎前突者において, 下顎骨後退術あるいは上下顎移動術に伴う頭部, 鼻尖および鼻下点に対する頬部豊隆の変化について検討した.対象は, 下顎骨後退術を施行した10例(MS群), 上下顎移動術を施行した7例(TJ群)である.ただし, MS群のオトガイの後方移動量, あるいはTJ群の上顎骨前縁部の前方移動量とオトガイの後方移動量の合計が8&acd;12mmの者を選んだ.術直前と術後約1年の側貌頭部X線規格写真を用いて, 両術式に伴う頭部, 鼻尖および鼻下点に対する頬部豊隆の変化および両群の軟組織側貌の違いについて調査し, 以下の結論を得た.1. MS群では, 頭蓋, 眉弓, 鼻尖および鼻下点に対して頬部豊隆点が上方へ, 頬部豊隆下点が後方へ移動した.2. TJ群では, 頭蓋および眉弓に対して頬部豊隆点が前下方へ, 頬部豊隆下点が前方へ移動し, 鼻尖および鼻下点に対して頬部豊隆点が下方へ移動した.3. TJ群の鼻下点に対する頬部豊隆点, 頬部豊隆下点の位置は, MS群に比べて有意に前方にあった.以上から, 鼻下点に対する頬部豊隆点および頬部豊隆下点の前方位は中顔面部の陷凹感を強調し, この改善には下顎骨後退術単独の方が有効であり, 頬部豊隆を含めた軟組織側貌の変化を予測して術式を選択すべきであると考えられた.
著者
蛭川 幸史 岩田 亮 黒澤 昌弘 近藤 高正 後藤 滋巳
出版者
日本矯正歯科学会
雑誌
Orthodontic waves : journal of the Japanese Orthodontic Society : 日本矯正歯科学会雑誌 (ISSN:13440241)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.49-56, 1999-02-25
参考文献数
30
被引用文献数
18

歯の先天性欠如(以下, 先欠と記す)は, 隣在歯の傾斜, 対合歯の挺出, 上下歯列の正中線の偏位など不正咬合の原因となることがある.また, 先欠を有する患者に対して矯正治療を行う場合は, 上下顎の位置関係や, 顎の成長発育, discrepancy, 審美的問題などにこれが加わり, 治療方針や治療方法の決定が難しくなることが多い.そこで, 先欠の存在と不正咬合との関連を調べるため, 本学矯正歯科に来院した患者の先欠を統計的に調査した.愛知学院大学附属病院矯正歯科に来院し, 資料採得を行った不正咬合患者のうち, 唇顎口蓋裂などの先天異常, 歯数に異常を引き起こす可能性のある全身疾患の疑いのあるもの, 矯正治療の経験のあるものなどを除いた3343人を調査対象とした.第三大臼歯を除く永久歯の先欠は, 9.42%に認められた.欠如歯数は, 2歯までのもので全体の75%以上を占めていた.先欠の多い歯種は, 下顎第二小臼歯, 上顎第二小臼歯, 上顎側切歯, 下顎側切歯, 下顎中切歯であった.先欠の存在と不正咬合との関連では, 先欠を有する人は先欠の無い人に比べ, 叢生の割合が低く, 上顎前突と下顎前突の割合が高かった.先欠部位が, 上顎のみの人は, 下顎前突の割合が高く, 下顎のみの人は, 上顎前突の割合が高かった.また, 先欠を有する人は, 先欠部位にかかわらず過蓋咬合の割合が高かった.
著者
葉山 佳一 新井 一仁 石川 晴夫
出版者
日本矯正歯科学会
雑誌
Orthodontic waves : journal of the Japanese Orthodontic Society : 日本矯正歯科学会雑誌 (ISSN:13440241)
巻号頁・発行日
vol.59, no.5, pp.303-311, 2000-10-25
参考文献数
39
被引用文献数
1

正常咬合者の歯列弓形態には人種差や個人差が認められるが, 個人の上下顎歯列弓形態は調和していると考えられている.しかしながら, 上下顎で異なる形態的特徴を報告した研究もあり不明な点が多い.本研究の目的は, 正常咬合者の上下顎歯列弓形態に四次多項式を適合し, 各項の係数から上下顎歯列弓形態の相関関係について検討することである.資料として, 本学の学生および職員約3, 500名の中から選択した正常咬合者30名(男女各15名, 平均23.2歳)の口腔模型をもちいた.教室で考案した計測システムは, 非接触三次元形状計測装置(VMS-250R, (株)UNISN), graphic workstation (Indigo 2, Silicon Graphics Inc.), ならびに三次元CAD software (SURFACER, Imageware Inc.)から構成される.通法にしたがって口腔模型を測定し, 上下顎にそれぞれ基準平面として咬合平面を設定したあと, 各歯の切縁中央, 犬歯尖頭, ならびに臼歯では頬側咬頭頂の座標値を算出した.なお大臼歯の計測点は近遠心咬頭頂の中点とした.さらにパーソナル・コンピュータ(Think-Pad 600, IBM Co.)とデータ処理ソフトウエア(Excel 97, Microsoft, Inc.)にて, 各被験者の上下顎の計測点にそれぞれ最小自乗法を用いて四次多項式(y=ax^4+bx^3+cx^2+dx+e)を適合した.被験者30例の上下顎ごとに各項の係数(a, b, c, d, ならびにe)の平均値と標準偏差を求め, さらに各係数について上下顎間で相関係数を算出後, 統計学的な検定を行った.四次多項式における各項の係数について上下顎間で算出した相関係数は, それぞれaは0.796, bは0.546, cは0.763, dは0.621, eは0.813であった.また統計学的な検定を行った結果, すべての項の係数において上下顎間で統計学的に有意な正の相関が認められた.このことから正常咬合者の上下顎歯列弓形態は相関関係があることが明らかとなった.
著者
小山 勲男 宮脇 正一 山本 照子
出版者
日本矯正歯科学会
雑誌
Orthodontic waves : journal of the Japanese Orthodontic Society : 日本矯正歯科学会雑誌 (ISSN:13440241)
巻号頁・発行日
vol.60, no.5, pp.313-318, 2001
被引用文献数
7 1

エッジワイズ治療を行った4症例において, チタンスクリューを大臼歯部あるいは小臼歯部に埋入して不動固定として用いた結果, 有用であることを確認したので報告する.チタンスクリューは歯肉切開を行わずに埋入された.埋入時や撤去時において, 痛みや出血はほとんど認められなかった.本報告で提示した4症例の治療経過から, 歯科矯正臨床においてチタンスクリューを用いた治療は, 患者に対する負担が軽く, 従来の矯正治療のメカニクスでは困難であった臼歯の遠心移動, 臼歯の圧下ならびにレベリングを行いながらの前歯牽引を患者の協力をほとんど得ることなく安全かつ確実に行えることが示唆された.
著者
古賀 義之 吉田 教明 三牧 尚史 小林 和英
出版者
日本矯正歯科学会
雑誌
Orthodontic waves : journal of the Japanese Orthodontic Society : 日本矯正歯科学会雑誌 (ISSN:13440241)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.318-324, 1999
被引用文献数
4

ワイヤー装着時に歯に作用する複雑な力系に関し, 臨床的な測定法の確立が望まれる.本研究では, 2つのブラケットとその間のワイヤーのような, 線材の両端の回転が, 二次元上で拘束されるような力系について解析した.その力系の理論的な算出には, 線材の曲げ剛性と曲げモーメントの比で表されるオイラーの微分方程式を解くことにより行った.また, 得られた理論式より, 線材両端の回転が拘束される複雑な力系と, 一端だけが拘束される単純な力系を比較することにより, 臨床上有効な矯正力の計測について検討した.その結果, 以下の結論が得られた.1. ブラケット等に加わるモーメントおよび力は, 線材が直線の場合, ブラケットの傾斜角の関数として表すことができる.モーメントに対するブラケットの傾斜角の影響は, 同側の傾斜角が反対側より2倍大きく, 力に対する傾斜角の影響は両側で等しい.2. 傾斜したブラケット等に直線のワイヤーを挿入した時の変形は, ワイヤーのサイズ, 断面形態, 材質によらず同じ形となり, その変形は三次曲線で表すことができる.3. ブラケットにワイヤーを挿入するような場合, 片側のみのブラケットが傾斜している条件では, ワイヤーの性状に関わらず臨床的に力系計測が可能で, 傾斜していない側のアタッチメントがブラケットの場合とリンガルボタンの場合では, 前者の垂直力が2倍大きくなる.
著者
遠藤 教昭 菅原 準二 三谷 英夫
出版者
日本矯正歯科学会
雑誌
Orthodontic waves : journal of the Japanese Orthodontic Society : 日本矯正歯科学会雑誌 (ISSN:13440241)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.105-115, 1999
被引用文献数
3

本研究の目的は, 骨格型下顎前突症における垂直的顔面骨格パターンと脳頭蓋形態との間に関連性があるかどうか, すなわち, Short face群とLong face群の脳頭蓋形態に差異が認められるかについて検討することである.研究対象は, 未治療女子骨格型下顎前突者398名(暦齢6歳0カ月&acd;27歳1カ月)で, 暦齢によって, 7歳, 9歳, 11歳, 成人群の4つの年齢群に区分した.それらの側面頭部X線規格写真の透写図上で設定した変量に統計処理を適用して, 各年齢群におけるShort face群とLong face群の脳頭蓋形態の比較を行ったところ, 以下の結果が得られた.1. Long face群においては, Short face群と比較して頭蓋冠前方部の前後径が有意に小さく, 両群の差は増齢的に明確になっていた.すなわち, Long face群はShort face群よりも, 前頭部の前方成長量が少なかった.2. Long face群においては, Short face群と比較して前頭蓋底の傾斜角(FH平面に対する前頭蓋底の傾斜角)が有意に大きく, 両群の差は増齢的に明確になっていた.3. 以上のように, Long face群の脳頭蓋形態は, かつて遠藤が報告した顔面頭蓋形態と同様に, Short face群と比較して増齢的に扁平化する傾向が認められた.さらに, 脳頭蓋と顔面頭蓋のいずれについても, Short face群とLong face群の形態的な相違は経年的に明確になっていたが, 前額部がそれらの形態的調和を保つために補償的な成長を示す部位であることがわかった.
著者
金 壮律 半田 麻子 石川 博之 吉田 重光 飯田 順一郎
出版者
日本矯正歯科学会
雑誌
Orthodontic waves : journal of the Japanese Orthodontic Society : 日本矯正歯科学会雑誌 (ISSN:13440241)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.112-117, 2001
被引用文献数
6

本研究の目的は, 口蓋部瘢痕組織が上顎の前後的成長に如何なる機序で影響を及ぼすのかを実験的に検討することである.生後20日齢の雄ウィスター系ラット45匹を用い, 粘膜骨膜を剥離することにより横口蓋縫合前後の口蓋両側部に瘢痕組織を形成した実験群, および無処置群の2群に分けた.さらに実験群を5群に分け術直後から術後8週目まで, それぞれ2週間おきに10%中性緩衝ホルマリン液にて灌流固定を行い, 上顎を切り出した.その後, 金属片を前方から3本目の口蓋ヒダの正中部とその後方約10mmの位置に埋め込んだ後, 軟X線撮影を行った.前後的成長量の計測は軟X線写真上で矯正用ノギスを用い, 頬骨前縁部と両側第一臼歯近心間, さらに両側第一臼歯近心と底蝶形口蓋縫合間の計測を行った.また, 計測値は埋め込んだ2本の金属片距離の実測値と軟X線写真上へ投影された金属片の距離で補正した.その結果, (1)両側第一臼歯近心と底蝶形口蓋縫合間距離においては, 実験群が無処置群に比べ前後的増加量は少なく, (2)頬骨前縁部と両側第一臼歯近心間距離においては, 実験群と無処置群の間では前後的増加量に大きな差は認められなかった.(3)無処置群においてはラットの顎発育に前後的な成長スパートが認められたが, 実験群ではそれが認められなかった.これらの実験結果から, 口蓋部瘢痕組織は上顎の前後的成長を抑制し, それは瘢痕組織により横口蓋縫合部での骨添加が阻害されたためと推測された.また, 顎発育の成長スパート以前に縫合をまたいで形成された瘢痕組織は, 上顎の前後的成長を大きく抑制することが示唆された.
著者
小林 美也子 新井 一仁 石川 晴夫
出版者
日本矯正歯科学会
雑誌
Orthodontic waves : journal of the Japanese Orthodontic Society : 日本矯正歯科学会雑誌 (ISSN:13440241)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.258-267, 1998
参考文献数
39
被引用文献数
11

本研究の目的は, 抜歯・非抜歯の診断や頭蓋下顎機能障害との関連において注目され, 歯科矯正診断における重要な指標のひとつであるSpeeの彎曲の深さについて三次元的に分析し, 日本人正常咬合者の咬合の形態的特徴を一層明らかにすることである.教室で開発した非接触三次元形状計測システムを用いて, 本学の学生および教職員約3, 500名の中から選択した正常咬合者30名(男女各15名, 平均年齢23.2歳, 標準偏差3.5歳)の矯正用診断模型について計測を行った.水平基準平面は切歯点と左右側の第一および第二大臼歯の遠心頬側咬頭頂を通過する咬合平面とし, 両咬合平面に対する切縁中央と咬頭頂の垂直的な距離をSpeeの彎曲の深さおよびSpeeの彎曲に最も適合した球を算出し, 平均値と標準偏差を求めた.Speeの彎曲が最も深かったのは第二大臼歯を後方基準点とした基準平面に対する第一大臼歯の近心頬側咬頭頂で平均1.28mm, 標準偏差0.60mmであった.また球の半径は72.4mmから3498.9mmの範囲, 中央値は158.2mmであった.以上のことから, 本研究で選択した日本人正常咬合者のSpeeの彎曲の深さは, 以前の報告よりも平坦であること, Speeの彎曲は第二大臼歯で個人差が最も大きいこと, 左右側差は認められないこと, 第二大臼歯近心頬側咬頭頂においては, 女性は男性に比較して統計学的に有意に深いこと(p<0.01), ならびにSpeeの彎曲に最も適合した球の半径には大きい個人差が認められることなどの特徴が明らかとなった.
著者
金澤 成美 山本 隆昭 高田 賢二 藤井 元太郎 石橋 抄織 佐藤 嘉晃 原口 直子 今井 徹 中村 進治
出版者
日本矯正歯科学会
雑誌
Orthodontic waves : journal of the Japanese Orthodontic Society : 日本矯正歯科学会雑誌 (ISSN:13440241)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.92-102, 1998
被引用文献数
31

1981年4月から1996年3月までの15年間に北海道大学歯学部附属病院矯正科を来院した矯正患者を調査対象に, 経時的推移を調査し以下の結果を得た.1. 過去15年間の来院患者総数は4, 559名で, 1981年から1990年までは増加していたが, その後の患者数は減少していた.2. 性別では, 男性 : 女性が1 : 1.5と女性が多く, また年齢が高くなるに伴い女性が増加していた.3. 初診時年齢は経時的に年齢が高くなる傾向にあり, 成長期の患者が減少し, 永久歯列期の患者が増加していた.4. 来院動機では審美障害が最も多く, 次いで咀嚼障害であった.また, 顎関節症を主訴とする患者が近年は増加していた.5. 来院経路では, 自意が減少し, 院内他科や他の医療機関からの紹介が増加していた.6. 不正咬合の種類では, occlusal anomaliesが74.2%, space anomaliesが78.7%であった.前者では, 反対咬合が40.5%, 上顎前突が13.6%であったが, 経時的に反対咬合は減少していた.後者では前歯部叢生が62.8%と多く, 経時的に前歯部叢生が増加している傾向が認められた.7. 顎顔面領域の先天異常では, 口唇口蓋裂の占める割合が高かったが, 人数では経時的に減少していた.8. 外科的矯正治療患者の割合は全体の約16%を占め, 反対咬合症例が圧倒的に多かった.9. 顎関節症状を有する患者は増加する傾向にあり, 特に女性の占める割合が高かった.
著者
吉田 教明 古賀 義之 阿部 理砂子 小林 和英 佐々木 広光 荒牧 軍治
出版者
日本矯正歯科学会
雑誌
Orthodontic waves : journal of the Japanese Orthodontic Society : 日本矯正歯科学会雑誌 (ISSN:13440241)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.240-246, 1998
被引用文献数
1

非対称フェイスボウの作用および副作用を明らかにし, 本装置の臨床上有効なデザイン, あるいは副作用を削減する方法を究明するために, フェイスボウ形態を変化させた時に, 大臼歯に作用する力系がどのような影響を受けるかについて研究を行った.アウターボウの一側を他側に比べて長くした場合と側方拡大した場合の左右側大臼歯に働く遠心力, 側方力およびモーメントを骨組構造解析法を用いて算出し, 以下の結論を得た.1. フェイスボウの非対称性を増すことで, 片側の大臼歯をより遠心に移動させる効果は大きくなるが, 同時に側方力も増加し, 大臼歯の交叉咬合を生じる危険性が高くなることが明らかになった.2. フェイスボウの非対称の度合にかかわらず, 左右大臼歯にはほぼ同じ大きさの遠心回転モーメントが生じた.従来の研究より, 非対称フェイスボウのもう一つの副作用と考えられていた, 大臼歯の捻転度の左右差を増長するような効果は生じにくいと考えられた.3. 非対称フェイスボウの副作用を削減するために, フェイスボウを極端に非対称に作製することを避けることが推奨される.遠心移動を必要としない大臼歯側のアウターボウ後端をフェイスボウチューブの位置とし, 遠心移動が必要な大臼歯側のアウターボウ後端をその位置からアウターボウに沿って25mmから30mm延長するか, 15mm延長して側方に30mm拡大すると, 非対称フェイスボウの作用と副作用のバランスのとれた効果を発揮するデザインになると考えられた.
著者
石川 哲也 山本 照子 佐々木 真一 高橋 賢次 藤山 光治 三谷 清二
出版者
日本矯正歯科学会
雑誌
Orthodontic waves : journal of the Japanese Orthodontic Society : 日本矯正歯科学会雑誌 (ISSN:13440241)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.65-75, 1999
被引用文献数
10

不正咬合や矯正治療が患者に与える心理的・機能的影響を知ることを目的として岡山大学歯学部附属病院矯正科における患者および保護者にアンケート調査を実施し, 回答不備, 口唇裂・口蓋裂, 外科的矯正治療, 特殊疾病を伴わない患者719人(男子233人, 女子486人), 保護者555人(男子患者199人, 女子患者356人)から以下のような結果を得た.1. 「矯正治療前, 歯並びや口元のことでからかわれたりいじめられたことがあった」と答えたのは男子9.4%, 女子12.1%であった.また, 「歯並びが気になり消極的な性格だったと思う」と答えたのは男子1.7%, 女子6.8%であったが, その中で「治療後積極的になった」と答えたのは58.8%であった.2. 「歯並びや口元が悪いと将来何か損をする」と思っている患者は, 男子27.9%, 女子38.7%で, 「将来子供の歯並びが自分と同じようになるか心配している」患者は, 男子16.7%, 女子32.7%であった.またともに男女別, アンケート調査時の年齢別において有意差がみられた.3. 装置装着を「はずかしい」と答えたのは金属ブラケット使用者では男子40.0%, 女子56.9%, 白色又は透明ブラケット使用者では男子26.8%, 女子42.8%であった.4. 「矯正治療して良かった」と答えたのは男子患者89.0%, 女子患者88.6%, 男子患者の保護者96.2%, 女子患者の保護者94.2%であった.5. 「矯正治療前, 前歯または奥歯で良く噛めなかった」と答えたのは全体の18.5%であったが, その中で70.3%が「もっと噛むるようになりたい」と望んでおり, 79.6%が「治療後良く噛めるようになった」と答えた.
著者
中山 二博 濱坂 卓郎 大勝 貴子 梶原 和美 小椋 幹記 黒江 和斗 伊藤 学而
出版者
日本矯正歯科学会
雑誌
Orthodontic waves : journal of the Japanese Orthodontic Society : 日本矯正歯科学会雑誌 (ISSN:13440241)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.49-57, 2003
被引用文献数
7

近年,増加している成人女性の矯正治療に伴う問題点を調査するため,鹿児島大学歯学部附属病院矯正科では,就業女性の矯正治療モニターを募集した。矯正治療モニターに応募した123名のうち,モニター選考の口腔診査に参加した67名にアンケート調査を行い,矯正治療を受けようと決めた動機と矯正治療モニターに応募した経緯を分析した。矯正治療の動機は,歯並びの見た目が悪い97%,顔貌が気になる66%,歯磨きがしにくい64%などであった。歯並びが気になり始めたのは13〜15歳,顔貌が気になり始めたのは16〜18歳であった。対象の90%は矯正治療の未経験者で,治療を受けなかった理由は治療費が高い82%,治療期間が長い75%などであった。応募の動機は,モニター募集に触発された88%,治療費が減額される78%,大学病院だから安心73%などであった。治療を始めようと思った理由は,モニター募集があったから82%,経済的余裕ができた46%,大人でも治療できると分かった39%などであった。モニター応募者には10代から審美的改善への欲求があった。受療に至らなかった理由として費用,治療期間などのほか,成人は矯正治療できないと考えていた者が3割もあり,矯正治療に対する正確な情報が不足していることが明らかになった。矯正治療モニターの募集が,結果的に成人の矯正治療に関する情報不足の解消と,潜在的治療希望者に受療のきっかけを与えた。
著者
Nakano Hirokazu Yoshida Akihide Ogasawara Kazushi Sanjo Akira Tanaka Shigeru Kamegai Takuya Satoh Kazuro Miura Hiroyuki
出版者
日本矯正歯科学会
雑誌
Orthodontic waves : journal of the Japanese Orthodontic Society : 日本矯正歯科学会雑誌 (ISSN:13440241)
巻号頁・発行日
vol.60, no.6, pp.398-401, 2001

The purpose of this study was to clarify the surface roughness of 31 brands of titanium alloy orthodontic wires from 13 manufacturers using a confocal optical microscope. Cobalt-chrome and stainless steel wire were also examined as a reference of comparison. The following results were obtained ; (1) Mean Ra, as determined from the lengthway axis of titanium alloy wires, was 0.296μm, and that determined from the widthway axis was 0.440μm. The modulus of Ra was 0.368μm. (2) For titanium alloy orthodontic wires, the greatest amount of modulus of Ra was 1.244μm and the lowest was 0.135μm. (3) Modulus of Ra was 0.140μm for the cobalt-chrome wire and 0.154μm for the stainless steel wire, each lower tendency than titanium alloy. As a result of our findings, we consider it necessary to select the smoother wire possible when using a sliding mechanism, if the mechanical properties of available wires are nearly the same.